彼氏いない歴=年齢の真性喪女、わたくし後藤美奈子。
そんな私にも奇跡が起き、ネットゲームで知り合った爽やかイケメンとお付き合いするに至る・・・!
だけど・・・デートをしてみると・・・遅刻しても謝罪の言葉がない、お金は私の方が多く払っている・・・。
彼氏と彼女の関係ってこんなもんなのかな・・・?
第一話はコチラから。

「あなたは浮気相手です」
2回目のデートでは、マサヒロよりも私の方が支払額が多かった・・・。
その事に引っかかっていたけれど、数日後、思い出した事がある。
それは、初めて会った時にマサヒロが全額おごってくれ「次のデートは美奈子が出してよ」と言った事だ。
「そうだ!そうだったじゃん!!初めて会った時は全部出してくれたんだった!!!なに忘れてんの私~~~マサヒロ疑ってごめん~~~(笑)」(部屋での独り言です)
が、しかし。
マサヒロとのデートはいつもそんな調子で、お金を出してはくれるものの合計額の5分の1程度だった。
5000円なら1000円出す。10000円なら2000円出す。
少ねぇ。
とは言い出せず、うんうんそうだよねって顔をして薄い笑みを浮かべながら無言で受け取る。
初めての彼氏で付き合い方も分からなかったし、何よりイイ男であるマサヒロに愛想を尽かされたくなかった。
マサヒロとお付き合いを始めて、半年が経った。正確には5ヶ月と14日のとある日――――――。
土曜日の夕暮れ時。
母の「夕飯できたわよー」の声を待ちながら私は部屋にこもってネットゲームをしていた。
マサヒロと出会うきっかけとなったネットゲームだ。
交友関係の多いマサヒロは、学生時代の友人と飲むとかでデートはお預け。
「家に帰ったらログインするよ」とは言っていたものの、帰宅が朝になる事も多々ある。
明日は昼過ぎからデートする約束をしている。仕方がない。今日はネットゲームで物寂しさを紛らわせよう。
その時、携帯電話が鳴った。
私の携帯電話を鳴らす人物、その正体は87.4%という高確率でマサヒロである。
もしや!?
グワっと着信画面に顔を近づけると、愛しの4文字。マ・サ・ヒ・ロ♡
あれっ、マサヒロ?もう飲み会終わったのかな?いやでも、まだ17時過ぎ・・・もしかして・・・声が聞きたくなっちゃった系かな?うふふ///マサヒロってばァア~~~///
脳内真っピンクのお花畑状態で電話を取る。
「もしも~し♡」
「・・・もしもし?」
・・・・・・・ぉ?
マサヒロの素敵ボイスではなく、若い女性の声が返ってきた。
あれ?マサヒロからの着信だったよね・・・?
携帯電話を顔から離しもう一度着信画面を見ると、そこにはやはり愛しの4文字「マサヒロ」。
どゆこと???
事態が呑み込めずにもう一度携帯電話を耳にあてる。
すると女性は、予め用意されていたセリフを吐き出すかのように一気に言葉を放った。
「かわいそうだから教えてあげるけど、マサヒロは私と付き合ってます。もう3年くらい。あなたは浮気相手です。マサヒロもそう言ってます。申し訳ないけどマサヒロの事は忘れてください。」
プツッ
ツーツーツー・・・
ピンク色だった脳内がゆっくりと確実に暗黒に染まっていく。
様々な思考が急スピードで流れていく中、一つだけ確たる決定事項があった。
一刻も早く電話をかけなおす。
携帯電話のボタンを素早く的確に押し、マサヒロへ電話をつないだ。
しかし、ツーツーツーという話し中を示す機械音が流れるだけ。
え、この状況で他の誰かと話してるの!?なんで!?なんなの!?
と最初は思ったものの、何回かけてもツーツー音になる事からある事実に気が付く。
着信拒否されてる。
となれば、今の電話が何だったのか、真偽を確かめるすべがなくなった。
なぜならマサヒロとの連絡手段が「携帯電話」しかないからだ。
実は付き合って半年間、お互いの家に行き来した事はない。
マサヒロは一人暮らしだったようだけど、家に呼んでくれた事はない。
彼氏いない歴=年齢の私にとって家デートは憧れである。でも、それとなく促してみても、
「また今度ね」
「ちょっと今は散らかってるから」
「外デートの方が好き」
こんな言葉で濁され、かわされる。
無論、家族と同居している私の家に呼んでみても「また今度、あいさつしに行くね」で終わってしまう。
しつこくすると嫌われるかもという不安から強く言い出せずに、また家に呼んでくれない事に何の疑問も抱かずそのまま付き合い続けた。
今から思い返してみると、不自然だったような気がする。
そういえば、デートだって2~3週間に一度のペースだった。
毎週末フルでデートをしたい私に対して、マサヒロは趣味のサッカーやら友人との飲み会やらで多忙らしくいつも「寂しい想いさせてごめんね」って謝られた。
マサヒロを見習って、私も家でゴロゴロするのは辞めて習い事でも始めようかなぁ。
そんな事をぼんやり考えていた矢先の出来事だった。
もしかしたら他にもマサヒロのおかしな言動はあったのかもしれないけど、何もかもが初めてで分からなかった。
だまされてたの?本当に?
マサヒロの口から真実が聞きたい。
何回も何回もマサヒロに電話をかけて、ツーツーという錆びついた機械音を聞く。
「ごはんできたわよ」母が部屋のドアの前で呼びかける。
「・・・今日、いらない。お腹痛い・・・」
自分が発したひどくしゃがれた低い声に驚く。母も驚いたのか、矢継ぎ早に言葉をかけてくる。
「どうしたの?大丈夫?下痢?生理?盲腸とかじゃないよね?病院行くなら車出すけど?」
こうも選択肢を提示してくれると助かるなぁ。
「生理痛。重い日。」
ああそれなら合点がいくとばかりに「お大事にね」と言い残し、リビングへ向かう足音が遠のいていく。
その夜はほとんど眠れなかった。
「ごめん」
翌日から女の執念ともいうべき私の真相解明が始まった。
30分に一度、電話をかける。ツーツーツー。
長文メールの嵐。返信はない。
本名をインターネット検索。ヒットなし。
ネットゲーム内の共通の友人に聞いてみる。成果なし。
そう、ネットゲーム。
あれ以来姿を見せなくなったけどマサヒロはいずれ必ずログインするはずだ。
なんと言ってもハイレベルまで育てあげたキャラクター、ゲットしたレアアイテム、溜め込んだゼニ、これらを丸っきり捨てるはずがない。
絶対にログインしたところを捕まえてやる・・・!
私は毎日毎日、帰宅してすぐにネットゲームにログインして深夜2時まで監視した。
ログを監視する為、仕事に行っている間も眠りについてる間も24時間パソコンをつけてログインしたままにしておいた。
しかし、一向にログインする気配はなかった。
そして、マサヒロの彼女だと名乗る女の人から電話がきて6日後の金曜日。
それまでマサヒロは金曜日の夜にログインする事が多く、翌土曜日が休日である事から長時間プレイしていた節があった。
「今日こそ来るかもしれない」
徹夜を覚悟して見張った。
私は深夜1~2時頃になると眠気のピークを迎える為、いつもマサヒロより先にログアウトしていた。
マサヒロもそれは承知のはず。
もし来るなら、私と鉢合わせしないと踏んだ2時以降だ・・・!
眠眠打破、シゲキックス、ブラックガム、ブラックコーヒー、ありとあらゆる眠気覚ましのアイテムを手元に置いて、いざ!
・・・・・・・・・・・
空っぽの時間が過ぎていき、頭がガックンガックンとなり始めた朝4時・・・。
私のログに通知がきた。
「マサヒロがログインしました。」
!!!!!!!!
きた!!!
きたきたきたきたきたきたきたきたきたーーーーーッ!!!
逃げられる前にすぐさまチャットで話しかける。
「マサヒロ?なんで電話でないの?女の人から電話があったけど、知ってる?説明して欲しい。お願い。」
もちろん無言だ。
無言という事は、弁明する真相がない、という事になる。
マサヒロの操るキャラクターがどこにいて何をしているか、分からない。
フィールドを探し回りながらチャットで話し続けて10分ほど経った。
マサヒロは言った。
「ごめん」
―――「マサヒロはログアウトしました。」
ごめん、という言葉の意味を私はすぐに理解した。
私は、浮気相手だったんだ。
それ以降、マサヒロは二度とログインしなくなった。
恐らくこの時のログインは、マサヒロのキャラクターが持っていたレアアイテムやゼニを、別のキャラに移していたんだと思う。
そっかぁ・・・私、だまされてたんだなぁ・・・。マサヒロ、好きだったのに・・・。初めてだったのに・・・。
あの電話から一週間、私は初めて声をあげて泣いた。
本当の事が分かって初めて泣く事が出来た。
つづく↓
